東京高等裁判所 平成11年(ラ)1875号 決定
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1本件抗告の趣旨及び当事者双方の主張
1 本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、本件債権差押命令申立を却下するとの決定を求めるというものであり、その理由は、別紙「執行抗告の理由書」、「上申書」、「相手方意見書に対する反論」、「反論書」、「反論書(2) 」及び「反論書(3) 」記載のとおりであって、要するに、本件請求債権及び本件差押債権のいずれもが製作物供給契約に基づく請負代金債権であり、動産売買先取特権の被担保債権及び差押債権としての適格を欠くというものである。
2 抗告人の主張を争う相手方(債権者。以下「テックス」という。)の理由は、別紙「執行抗告に対する意見書」、「抗告理由の補充に対する反論書」及び「反論書」記載のとおりであり、要するに、本件請求債権及び本件差押債権はいずれも売買代金債権であり、動産売買先取特権の被担保債権及び差押債権としての適格性を有しており、仮に、代金債権の発生原因が抗告人が主張するように製作物供給契約であるとしても、本件における契約は売買と請負の両面の性質を持つものであるから、上記の各債権については動産売買先取特権の被担保債権及び差押債権としての適格に欠けるところはないというものである。
第2当裁判所の判断
1 本件記録によれば、以下の各事実を認めることができる。
(1) 本件債権差押命令(以下「本件命令」という。)を申立てた債権者であるテックスは、自動梱包機械の製造販売及び修理等を目的とする会社であり、株式会社丸石産業(以下「丸石」という。)は、包装機器の販売等を目的とする会社であるところ、同社は平成11年5月20日破産宣告を受けて抗告人がその破産管財人に選任されたことから、抗告人が本件命令における債務者となったものであり、本件命令の第三債務者であるトッパンコンテナー株式会社(以下「トッパンコンテナー」という。)は、包装用品機器類の販売等を目的とする会社である。
(2) 丸石は、平成10年10月9日、テックスに対し、トッパンコンテナーがその顧客であるピザチェーン店ピザーラ(以下「ピザーラ」という。)で使用するピザの配達用の段ボールを機械的に製作するための段ボール投入・供給及び検査・集積装置(以下「本件装置」という。)を代金940万円で発注し(以下「本件契約」という。)、トッパンコンテナーは、同月20日、丸石に対し、本件装置を代金1150万円で発注した。テックスは、本件契約に基づき、本件装置を製作したうえ、丸石の指示に基づき、トッパンコンテナーに対し、2回に分けて、平成11年1月に本件装置のうちの検査・集積部分を、同年3月に本件装置のうちの段ボール投入・供給部分を、それぞれ納入した。
(3) 本件装置に関する上記の各取引は、当初、トッパンコンテナーから丸石に対し持ちかけられ、それを丸石がテックスに取り次ぎ、各担当者の打ち合わせを経て成約に至ったものである。
本件装置は段ボールの投入・供給部分と検査・集積部分から構成され(両部分は可分で、取り外しが可能である。)、テックスが設計し、一般メーカーからの規格性のある部品を調達することによりこれを製作し完成したものであるが、本件装置の検査部分(ピザーラのキャンペーン用シールが貼られているか否かを検査する装置。したがって、他社へ販売する場合などには、同部分の仕様の変更が必要となる。)を除く上記各部分は一定程度に規格化され、同種の機械が他社からも販売されており、また、本件装置によって処理できる段ボールのサイズは、必ずしも固定されたものではなく、設定を変更することにより2分の1程度のサイズまでの段ボールについて作業が可能とされている。なお、本件装置のうちの伝動ベルトについては、抗告人が主張するような丸ベルトへの変更はなくVベルトのままであり、また、ローラー部分についても、抗告人が主張するようなクロームメッキ処理はされておらず、いずれの仕様にも変更はない。本件装置の大部分は規格品により製作され、検査部分及びシール貼付機械の据付のための台座部分などのオリジナル部分は少ない(抗告人は、テックスがトッパンコンテナーから、同社の別工場で使用中の装置の参考図(乙7)の交付を受けて本件装置作成の参考としたと主張するが、同図面が本件装置作成にあたり具体的にどのように利用されたのかについては、本件装置の組立図(乙13)と対比しても明らかでないうえ、荒井文雄作成の平成11年11月15日付陳述書によれば、上記参考図は本件装置と外形、機構及び電気制御等の面で全く異なっているということが認められるから、仮に同図面がテックスに交付されていたとしても、上記認定を左右するものではない。)ため、製作に要した期間は2か月弱であった。
(4) 本件装置は、上記のとおり、段ボール投入・供給部分と検査・集積部分からなっているが、今回の取引においては、トッパンコンテナーの意向で本件装置に申立外トッパンレーベル株式会社製造のシール貼り機械を取り付けるため、本件装置には同機械を取り外し可能なボルトで固定するための台座を付設するものとされ、これらの機械の組み合わせによって、<1>段ボール投入・供給部分に段ボール用紙をそろえて置き(本件装置の部分)、<2>段ボールが1枚ずつ流れていく間にピザーラのキャンぺーン用シールを貼り、<3>同シール貼付の有無を検査したうえ、段ボールを50枚ずつ集積し(本件装置の部分)、<4>段ボールを50枚単位でビニール梱包するという流れで作業がなされることとなる。
2 以上の認定事実によれば、テックスは、丸石を介したトッパンコンテナーの注文に基づき、自社で調達した材料で本件装置を製作してトッパンコンテナーにこれを引き渡したというものであるから、テックスと丸石の間の本件契約は製作物供給契約とみることができる。そして、テックスは規格性のあるメーカー部品を通常の仕様に従って用い、本件装置を製作したものであり、とりわけ、本件装置のうち検査部分とシール貼付機械を据え付けるための台座部分を除けば、必ずしも供給者であるテックス自身でなければ製作することができないわけではないことが認められる。また、本件装置のうちの検査部分とシール貼付機械を据え付けるための台座部分は、本件装置全体の機構ないし本件装置による作業工程全体に占める割合も、それほど大きいものではない。したがって、本件装置は汎用性があり、検査部分についてのみ仕様の変更を施すことによって、他社へ販売することも可能な製品ということができる。本件契約は、製作物供給契約ではあるが、その目的物である本件装置は、ほぼ代替物とみることができ、その製作に要した期間や労力、製品のオリジナル性が少ないことなどからみて、請負的性格よりも売買的色彩が強いものと認められる。
そして、動産売買先取特権の立法趣旨が、<1>動産売買を容易かつ安全ならしめるために、先取特権を与えて売主を保護すること及び<2>動産の売主が売却したからこそ買主である債務者の一般財産を構成するに至ったのであるから、売主に優先権を与えることが公平にかなうと考えられることに照らすと、テックスの丸石に対する本件契約に基づく代金債権は動産先取特権の被担保債権になり得るというべきである。
また、テックスと丸石の契約が上記のとおりであり、同契約と丸石及びトッパンコンテナーの前記契約の内容並びに契約成立の経緯に照らせば、丸石とトッパンコンテナーの前記契約は、テックスと丸石の契約と同様の性質を有する製作物供給契約、あるいは、テックスが製作した本件装置にほとんど手を加えることなくトッパンコンテナーに引き渡すという意味からすれば売買契約そのものとみることができるものであるから、丸石のトッパンコンテナーに対する代金債権は、動産先取特権に基づく物上代位の対象となるというべきである。
3 よって、本件抗告は、理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 裁判官 沼田寛)